「のむひょん」の「の」

ひらがなで書くとかわいいな。のむひょん。特に「ひょん」の辺りのユルさ加減、見事に名が体を表している。ともあれその盧武鉉の盧である。

日本語のニュースサイトなどで使っている「盧」はUTF-8では0xE79BA7(EUC-KRでは0xD6D4)だが、この字には「盧」という異体字があるらしい。こちらはUTF-8では0xEFA4B3(EUC-KRでは0xD2C6)で、どうやらSJISには無い字らしい。分かり易いように拡大してみると、

左が0xE79BA7のほうで、右が異体字0xEFA4B3のほう。上の画像はメモ帳でフォントをTahomaの80ptにして表示した場合だが、右の異体字のほうはTahomaに無いのか、どうやら韓国語フォントGulimで代用しているらしい。ちなみに両方ともGulimで表示してみたら見分けがつかなかった。「それじゃ異体字ですらないじゃないか」と言いたくなるが…。

それはまぁよい。ともかく2種類あるのである。その両者を韓国語のIMEが変なふうに「使い分けて」いるらしいのを見つけた。

その話に入る前に韓国語の正書法について少し説明。既に知ってる人はカコミの中は読み飛ばしてね。

まず、「盧」の字は日本語で「ろ」と読むのと同じく韓国語でも本来の読みは「ろ(로)」。

ところが、韓国語の子音字R(ㄹ)は語の頭ではR音で発音されない*1。母音字A(ㅏ)、 O(ㅗ)およびこれらを含む複合母音字の前ではRはN音に化け、それ以外の母音字の前では完全に脱落する。書く時も本来の読み通りに綴るのではなく、化けた通りに綴る。

このルールは人名の場合にも適用される。それで盧武鉉の盧も本来「ろ(로)」なのが「の(노)」と読まれ「の」と綴られるわけ*2。以上、説明終わり*3

で、その「盧」である。韓国語IME (Windows用のIME2002) で打つ時には本来の「ろ」で変換するのか、それとも化けた後の「の」で変換するのか迷った。結局どちらで変換しても出たのだけれど、よく見たら「ろ」で変換した時と「の」で変換した時とで字体が違う文字コードを見てみたら、「の」の時は上述の異体字が出て来ていたという次第。何でこんな仕様になっているんだろう。

思わず「こんなことして検索する時困らないのかな」と他人事ながら心配になってしまったが、考えてみれば人名を検索する時わざわざ漢字をキーワードにする韓国人なんてまずいないだろう*4。ハングル書きの人名を漢字でどう書くかを検索することはあるだろうけれど。ついでにEUC-KRの頁でどちらの字体がよく使われているかあとで統計でも取ってみると面白いかも知れないな。

追記

上の「盧」の字体の違い、もうちょっと分かり易い提示の仕方は無いかと思って、今度はIMEがハングルを漢字に変換中の様子をSSに取ってみた。左が「ろ」、右が「の」をそれぞれ変換しているところ。このフォントは何だろう。Dotum-cheかな? なるほどコレだと字体が異なるのがはっきり分かるのだが…

見てびっくり。「盧」だけでなく、「ろ」と「の」の両方に現れている「労・路・老・露・魯」全てが「ろ」の時と「の」の時とで字体が違うぞ。どうやらこの種の異体字はザラにあるらしい。どうなってるんだコレは。

びっくりついでに、各々の漢字の呼び方まで違う。「労」の場合だと左は「はたらく ろ」と書いてあるのに、右では「はたらく の」になってる。国語辞典などでは普通は左側、つまり本来の読み通りの「はたらく ろ」のほうで統一してある筈。同一の漢字が「ろ」でも「の」でも出て来るようにしてある*5のは便宜上そうしたということでまだしも理解できるが、呼び方くらい統一すればいいのに。

*1:総じてウラル・アルタイ語族に属する言語にはRで始まる単語が無いのだそうな。日本語をウラル・アルタイ語族に含める説がその根拠の一つに「ラ行で始まるやまとことばが無い」ことを挙げているのはわりと有名な話だと思う。日本語ではラ行で始まらないのは固有語(やまとことば)だけだが、韓国語では固有語だけでなく漢字語までがこの原則に従う。

*2:同じ理由で、「李」という姓も本来の読み「り(리)」ではなく「い(이)」と読み書きする。これなども見たことある人は多いかと思う。

*3:上記の説明は南での話なので注意。北ではRはR音のままで読まれ、Rのまま書かれる。

*4:何しろ自国の国名すら漢字で書けない大学生がザラにいるくらいだし。

*5:いやそれがイマイチ「同一の」でないからびっくりしてるのだけれど。あぁややこしい。